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ペプシの新CMが大炎上!?ブラック・ライヴス・マターと公民権運動。

1960年代のアフリカ系アメリカ人公民権運動

「グローリー/明日への行進」という映画がある。この映画の原題は「Selma」だ。
アメリカのアラバマ州セルマを指しており、1965年に黒人の公民権を求めてキング牧師が率いたセルマからモンゴメリーまでのデモ行進を描いている。

グローリー/明日への行進 [DVD]

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内容(「キネマ旬報社」データベースより)
世界を愛で変えようとしたキング牧師の実話を描いたドラマ。1965年、黒人の選挙権を求める525人の同志と共に、キング牧師アラバマ州セルマの地でデモ行進を始める。ところが、そこで待ち受けていたのは白人の州警察と民兵隊による弾圧だった。
出典:amazon.co.jp
wikipedia:グローリー/明日への行進

1960年代、セルマではなお人種差別的な施設分離がなされており、食堂や映画館などでは席が分かれていて黒人が白人席に座ると暴力を受けたり逮捕された。
また、黒人住民の1%しか有権者登録がされてなかったが、これは脅迫や差別により不当に登録を阻害されていたためであり、実質、選挙権は認められていなかった。

このような差別に反対する人々が、合衆国憲法違反を訴えて民主的なデモを行ったが、警察による暴力によってことごとく鎮圧された。
中でも、1965年、3月7日日曜日に行われたセルマからモンゴメリーまでの行進は「血の日曜日」と呼ばれ、警察の催涙ガスやこん棒による暴力で多くの無抵抗の人々が負傷し、17人が重傷で病院へ搬送された。
この悲惨な事件は現場からTV放映され、全米の世論に大きな影響を与えた。
また、Amelia Boynton Robinsonさんという一人の女性が重体となった写真は、センセーショナルに新聞や雑誌などで取り上げられた。google:image:amelia boynton robinson photo
その結果、公民権運動は世論の支持を獲得し、同年アメリカ合衆国議会は「1965年選挙権法」を成立させ、投票における人種差別を禁じた。

この一連の公民権運動は多くのアフリカ系アメリカ人にとっての政治的なイメージの原点となっており、近年問題になっている「Black Lives Matter」は新たな公民権運動であるとも言われている。

「Black Lives Matter(ブラック・ライヴス・マター)」運動とは何か。

「黒人の命も大切だ」と訳されることが多い「Black Lives Matter(以後BLM)」は、警察の黒人射殺に対する抗議デモに端を発する権利運動だ。
2012年に、フロリダ州で当時17歳トレイボン・マーティン(アフリカ系)が自警ボランティアのジョージ・ジマーマンによって射殺された。この事件に無罪判決が下りたのをきっかけにBLM運動は始まった。*1
wikipedia:トレイボン・マーティン射殺事件
以前より、アメリカでは黒人に対する警官の暴力が度々問題となっていたが、MLB運動が盛んになると、全国で次々と警察による暴力を告発するデモがわき起こった。
中でもデモの中心的な根拠となったのが、2014年にミズーリ州ファーガソンで丸腰の18歳の黒人青年マイケル・ブラウンが白人警察官によって射殺された事件だ。wikipedia:マイケル・ブラウン射殺事件
この事件を契機にデモは激化していったが、警察による黒人の射殺は後を絶たなかった。

そんな中、2016年7月テキサス州ダラスで警察5人が射殺されるという事件が起きてしまった。そしてその10日後、ルイジアナ州バトンルージュで警察3人が射殺された。容疑者はどちらも黒人男性で意図的に警察官を狙ったとされる。

これらの事件はBLM運動とは直接関係は無いものの、アメリカの分断は進んでおり、暴力的なヘイトクライムは増加傾向にある。

そんな情勢を背景にして、ペプシの新CMがツイッター上で炎上した。

www.youtube.com

主演のケンダル・ジェンナー(Kendall Jenner)はリアリティTVで有名になったセレブモデルだ。
CMを見ていただければわかるが、マイノリティのデモに金髪のカツラを脱ぎ捨てた白人セレブが仲間入りして、警官にコーラを渡して解決するという内容だ。
彼女が警官に向かって対峙するシーンは、BLM運動で話題となった一人の黒人女性が武装した警官隊の前に立ちはだかる写真を彷彿とさせる。*2

f:id:YagimiyaG:20170407000726j:plain

widerimage.reuters.com

CMに対するツイッターまとめ

呟かれたツイートのうち、よく見られた文言を以下にまとめた。

・警官が暴力的に描かれていない。催涙スプレーもやらないし、丸腰の人を撃ったりもしない。
・プロテスト運動の歴史を軽視している。
・現実から離れたファンタジーだ。

・白人特権とセレブの無理解を象徴している。
・武装した警官の間を縫って歩けるのは白人女性だけなのは事実。

・BLM運動を利用して金儲けしようとしている。
・警官による暴力の被害者に謝罪しろ。
・ケンダルジェンナーも被害者だ。-いや同罪だ。
・彼女がレイシズムや差別、不平等、貧困と一度も戦ったことの無い特権階級の人間の代表みたいに扱われてるけど、それは彼女に対する侮辱だ。
・上層部は多様性を求める運動についてまるで理解していない。

・逆にCMのひどさに皆が団結した。
・別に悪くなかった。みんな気にしすぎ。白人女性が警官にコーラをあげただけ。

ペプシの謝罪とCMの撤回

この騒動を受けてペプシは謝罪し、CMを撤回した。
また、ケンダル・ジェンナーを矢面に立たせたことについても謝った。

ツイッターでの反応は、多くのユーザーによる様々な呆れ顔の画像の引用と「で、何に対して謝ってるの?」という返信が目立った。

炎上の理由

CMに描かれている上っ面の多様性は、企業の現状認識の甘さを露呈しており、時代遅れだと受け取られているようだ。

”グローバルな連帯が意味するものが、人種の違う人同士がコーラ片手に和気あいあいと歌いながらピクニックすることだった単純な時代を思い起こさせる。”

また、お花畑リベラルを意味するlibtardという言葉も目立った。*3

BLM運動の切実さ、多くの人間が犠牲になっている状況を鑑みると、CMがあまりに能天気すぎたのが問題だろう。
現状にあまりにそぐわない無神経な描き方によって、BLM運動が軽視され、白人特権が余計に際立つという受け取られ方をしている。
ペプシCMは世情に安易に歩み寄った結果、皮肉なことに意図せず、白人特権の無理解を代弁してしまったようだ。

しかし、やり方を大きく間違えた事が問題なだけで、融和を呼びかけようとしたその姿勢は評価すべきだろう。
人種間の分断はお互いに理解し合い、歩み寄るしか解決策はない。
世界の変化はスピードを増しているが、しかし現状を好転させるにはセルマの行進のように辛抱強い歩みが必要である。

良きことはカタツムリのようにゆっくり進む。だから、自分のためでなく人々のために働く人は、いたずらに急がない。なぜなら、人々が良きことを受け入れるには、多くの時間が必要なことを知っているからだ。-マハトマ・ガンジー

ガンディー 獄中からの手紙 (岩波文庫)

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*1:なお、この事件自体は黒人差別によるものとは断言できず、フロリダ州の正当防衛法(Stand-your-ground law)に原因があると思われる。この法は、自己防衛のために銃の使用を認めたもので、正当防衛の客観的な証拠(認定要件)なしに発砲が可能であるという。この法の制定後に州内の殺人件数は増加したという。

*2:ルイジアナ州バトンルージュにおける抗議デモの際、武装した大勢の警官を前に対峙する一人の黒人女性(Ieshia Evans)。この写真は抗議デモの象徴となった。なお、この女性はデモの際に立ち退きを拒否して逮捕された。

*3:「liberal:リベラル」+「retard:間抜け」 リベラルと称する間抜け。絵空事を並べるだけで現実対応能力がない、という意味。